要点
- 普通のマスクでは感染可能性をゼロにはできない。
- 一方で、普通のウイルス除去マスクでもかなり感染リスクを下げられる。
前回の分でエアロゾルが何かという議論をした。その上で、エアロゾル中にいるウイルスに対して、マスクは機能するかという問題である。答えとしては、マスクは完璧ではないが、感染するリスクを間違いなく下げられる。
まず、基本的理解のおさらいとして、飛沫の一部はエアロゾルとして空気中に滞留する。通常条件下であれば３０分ほどであり、大きさによって滞留時間が異なる。飛沫のような物質の場合、５ミクロン以下がエアロゾルになると言われている。ただし、５ミクロンであればすぐに下に落ちてしまう。
一方で、コロナウイルスのサイズは０．１ミクロンである。つまり、ウイルスを内包したエアロゾルは０．１ミクロンから５ミクロンの大きさを持っている。
オレンジ色の分布の部分がエアロゾル化した飛沫の分布を指している。おそらく、ウイルスを内包したエアロゾルは１－２ミクロンをピークとして空気中に存在している。それはウイルスの内包量という意味であって、一つ一つのエアロゾルの数では小さくなる方が多い。一方で、ウイルス量は大きな飛沫の方が多いが、そのような物はすぐに下に落ちるため、エアロゾルとして空気中に滞留している量は少ない。空気抵抗の観点から考えると、おそらく１－２ミクロンのエアロゾルがピークのはずである。
一般に販売されているウイルス除去マスクというのは、おそらく、1.5ミクロンの網目を持っている。つまり、エアロゾルのピークが１－２ミクロンであるため、普通のマスクで空気中にあるウイルス内包エアロゾルの半分を抑制できる。普通のマスクはそれくらいの予防効果を持っている。
そして、ここに専門家と一般の議論の分化がある。感染の専門家の意見というのは、究極的には、普通のマスクはウイルスを半分しか除去できないから無駄ということになる。例えば、N95マスクと言われているのは網目がもっと細かく、0.3ミクロンの粒子を９５％まで除去できる。つまり、一般のマスクとは性能が違い、かなりの部分のウイルスを除去できる。
だからと言って、普通のマスクに意味がないという議論にはならない。例えば、結核に罹った患者がいる環境の中で普通のマスクに意味がないという議論は分かる。それでもリスクを下げる効果はあるが、感染力が高い病原体に関しては普通のマスクを通りに抜ける量が多すぎて、ほぼ機能しなくなるだろう。
ここで感染力が重要なファクターとなる。ある病原体は空気感染して、ある病原体は飛沫感染すると言われる。現実的には、空気感染する病気であっても、大部分の病原体は大きな飛沫の中にいる。結局、飛沫感染するというのはそのように大量の病原体に晒された時に、体内の白血球が対処できなくなって防衛ラインを突破され、体内で病原体が増殖する病気を指している。
一方で、空気感染する病気の場合は、そのように大量の病原体が必要ではない。例えば、結核において、どれくらいの結核菌に晒されれば感染するのかは分からないが、その量はインフルエンザウイルスよりも少ないはずである。このような病気であれば、飛沫のごく一部のエアロゾル部分だけで感染してしまう。
今回の新型コロナウイルスの感染力がどのようなものかは分からない。ただし、それほど感染力が高くないため、空気感染しないと言われている。ただし、ウイルス濃度が高い空間ではおそらく空気感染しており、中国政府もその事実を認めている。つまり、閉じられた空間でウイルスを含んだエアロゾルが滞留するような条件下では空気感染する。
それでも、普通のマスクを使えば、ウイルスを含んだエアロゾルの半分を防止できるため、かなりリスクを下げられる。それで感染するかどうかはウイルスの感染力と、その人の免疫力に依存している。リスクはゼロには出来ないが、意味がないということでもない。
ここで想定しているの通常の閉じられた空間である。もし、その空間が乾燥しており、暖房が付いていれば、エアロゾルから更に水分が失われ、また暖気に乗って巻き上げられる。つまり、ウイルス濃度は更に上昇するだけでなく、普通のマスクを通り抜けるサイズのエアロゾルが増えてしまう。このような条件下では更に感染のリスクが高まる。
それでも、普通のマスクの防止効果が全て失われるわけではない。ただし、花粉を抑えるためだけのマスクは網目が大きすぎるので、ウイルス防止には意味がない。
FFF 