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ウクライナ侵攻と日本の防衛リスクアセスメント

  • ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本は北方のリスクアセスメントを更新し、未知のリスクを減らす必要がある。
  • 日本とロシアは陸続きではないため、ウクライナ侵攻と同じ方法論を使えるわけではないが、同じような攻撃手順を踏んでくる可能性がある。
  • ロシアが日本を侵攻する可能性は低いが、今回の侵攻はロシアの攻撃能力と日本の防衛能力を比較する上で多くの情報を提供している。

 ウクライナにとってロシアは国境線の多くを接する隣国で、日本が物理的に一番近い国もロシアである。他の多くの国はロシアと国境を接していないため、ウクライナの問題は完全に遠くの出来事である。もちろん、現状において、ロシアがすぐに日本を侵攻することは考え難く、日本でも現実的な問題として捉えられていない側面がある。

 しかし、ロシアが日本に侵攻する可能性はゼロではない。ソビエト時代にはもっと強い危機感があり、ロシアがソビエトや帝政ロシアの目指すのであれば、日本がロシアの拡大政策の影響を受ける可能性自体は存在する。今回のウクライナ侵攻の帰趨は決していないが、初期の状況を手がかりとして、日本にどのような脅威があるかをちゃんと把握しておく必要がある。

リスクアセスメントは目の前にある現実的な脅威に対してのみ行われるものではなく、限りなく小さな可能性であっても、それがどのようにして起こるかを把握して置かなければならない。最終的に未知のリスクに向き合うことになるかも知れないが、なるべく多くの問題を既知のリスクにしておけば、実際の対処はより容易になる。

攻撃の順番

 今回のウクライナ侵攻は以下の順番で行われた。

  • 演習及び外交的なレトリック
  • サイバー攻撃
  • 軍事拠点の攻撃及び制空権の確保
  • 陸からの侵入
  • 一部拠点の確保
  • 都市への侵攻

 ウクライナに対する侵攻は現在も続いており、今後どのような形で攻撃が展開して行くかは分からないが、少なくとも、初期の侵攻はこのような手順で行われており、このような手順でどのように日本を防衛すべきかを議論する。

侵攻理由に意味はない

 今回のウクライナ侵攻は演習から始まり、それと同時に外交的なレトリックが作られていた。演習から侵攻へと発展するのはよくある形であり、ロシアはソビエトのルールブックを引き継いでいるため、演習で兵力を集中させ、そこからウクライナ侵攻へと続けた。

ロシアの外交的レトリックの特徴としてディスインフォメーションがある。民主主義的な観点からすると、ディスインフォメーションはかなり実行しにくい。ディスインフォメーションはFalse Flagとは基本的に違う概念である。False Flagが偽の情報を使って陽動作戦を行うところに目標があるが、ディスインフォメーションは指導者の行為を正当化するところに目標がある。

民主主義国家において、指導者がそのような行為を実行することはほぼ認められておらず、ディスインフォメーションは権威主義国家しか利用しない。例えば、アメリカは大量破壊兵器が存在するという理由で、最終的にイラク侵攻を行っている。しかし、実際には化学兵器は存在せず、アメリカは依然として多方面から非難される立場にある。

 この情報がどのように伝播したかは良く知られた話であり、表面上はディスインフォメーションのように見えるが、実際にはそうではない。少なくとも、ブッシュ大統領がイラク侵攻を正当化するために大量破壊兵器という話を作り上げたということはない。

 もし、これが権威主義国家のディスインフォメーションであれば、最終的に、大量破壊兵器を確実に発見する。そこに存在しなくても、そこに大量破壊兵器を用意し、行為自体の正当化を行う。それがディスインフォメーションであり、民主主義的な概念では、最終的に説明責任が求められるため、実行しにくい戦略である。CIAが用いるのはDisinformativeというよりはManipulativeなものであり、やり方には結構な差がある。

要するに、ロシアの場合であれば、実際的に戦争する理由があるかどうかは重要ではなく、戦争したいと思えば、どんな理由をつけてでも戦争できる。そして、戦争自体はほぼ権力闘争の一種であり、何らかの意見表明があったとしても、ほぼ関係ない。ただ単に強さを競っているだけに過ぎず、ロシアが表明したウクライナ侵攻理由にはほぼ意味がない。

旧共産圏は同じようなルールブックを持っており、それは中国も同じである。中国側の理解というのは自らの方法論の映し鏡であり、実際にアメリカやEU諸国が何をしようとしているかは把握できていない。一方で、その逆も真であり、民主主義国家側は権威主義国家の思考法をちゃんと理解できていない。相手を上回るためには、権威主義国家側の思考法をちゃんとクラックしておく必要があり、自らの言語で相手を把握すれば、手ひどい失敗に陥る可能性がある。

サイバー攻撃

 ロシアはウクライナ侵攻の理由を作り上げた上で、最初に実行したのがサイバー攻撃だった。それがどのような物だったかは以下のリンク先の記事でも確認できる。

New data wiper malware hits Ukraine targets

https://www.techtarget.com/searchsecurity/news/252513845/New-data-wiper-malware-hits-Ukraine-targets

今回のサイバー攻撃は2段になっており、最初にDDoSが仕掛けられ、その後にワイパー攻撃が実行された。両方ともウクライナの政府機関にマルウェアから行われたもので、それは相当前から準備されていたことを意味している。つまり、突然にサイバー攻撃が行われたのではない。

マルウェアから実行されたというのは1度攻撃を実行すると、ほぼ同じような工作が出来ないことを意味している。それは仕込まれたマルウェアはほぼ1回しか利用できないからである。また、これらの攻撃が実行されても数日もあれば、全てを復旧することも可能である。

 つまり、今回のようなサイバー攻撃が実行されると、その効果が続く期間には限界があり、ウィンドウタイムはそれほど長くない。内部に侵入する形でサイバー攻撃が実行されれば、それから数日以内に攻撃が実行される可能性が高くなる。逆に言うと、それから数日以内に実行しないとマルウェアを仕込んだ意味が全くなくなる。

軍事拠点の攻撃と制空権

サイバー攻撃に引き続き、ロシアはウクライナの軍事拠点を攻撃した。その際にプレシジョンミサイルを利用し、民間の被害を抑えながら、ターゲットだけを破壊しようとしている。ロシアのプレシジョンミサイルのバックログはそれほど多くないため、日本の現状の能力であれば、そこまで壊滅的にならない可能性が高い。

日本の場合、SM3やPAC3があり、防衛能力自体は高い。飽和攻撃の問題もよく議論されているが、今回の攻撃ではそのような数のミサイルが同時にウクライナに撃ち込まれたわけではない。結局、ミサイルの数に限度があるため、初期の軍事目標攻撃にそれほど多くを割けないという事かも知れない。

ただ一方で、サイバー攻撃の処理に手間取れば、日本の防衛能力が一時的に低下する可能性もあり、危険なウィンドウタイムが出来るかも知れない。日本の衛星監視能力は東アジアでは一番高く、それを破壊するのはほぼ無理だが、地上との連携を弱めることは出来るかも知れない。つまり、ロシアは今回と違う形でサイバー攻撃を仕掛けるかも知れず、防衛力の純粋な増強よりも、サイバー攻撃対策及びサイバー攻撃で被害を受けても防衛系統がちゃんと機能するような仕組みを作り上げる方が重要かも知れない。

ウクライナでは初期の攻撃で制空権を掌握した上で攻撃機を飛ばし、更に軍事拠点を攻撃している。基本的には、ミサイル防衛とほぼ同じような能力で攻撃機にも対処することになるが、一方で、日本の空軍力も防衛の主力になる。そうなると、日本は第5世代の攻撃機へと装備を更新する必要があり、現状の方向性は正しいのだろう。

拠点の確保とオデッサ攻撃

ロシアとウクライナの国境線は広く、陸続きであるため、戦車がそのまま侵攻している。日本の場合、この条件が大きく異なり、日本に入るためには海から侵攻する必要がある。今回のウクライナ侵攻において、ロシアの黒海艦隊はオデッサを攻撃している。当初の目標は、あるいは依然として現在の目標はオデッサを攻撃して確保することにある。それは以下のリンク先で詳しく説明されている。

Are Russian Marines Preparing to Seize Odessa from Ukraine?

https://nationalinterest.org/feature/are-russian-marines-preparing-seize-odessa-ukraine-200468

揚陸能力という点において、ロシアの黒海艦隊とウラジオストックの太平洋艦隊の編成には差がない。つまり、オデッサを攻撃している能力がそのまま日本を攻略する能力になる。戦争が始まって3日になるが、オデッサはまだ落ちていない。そうであれば、ロシアが日本の港湾を攻略するのは極めて難しい。ただし、オデッサはロシアのクリミア侵攻以降、ウクライナの海軍拠点になっており、ロシアが日本の海軍拠点を狙わなければ、揚陸地点を確保することは可能である。

上記の記事にも出てくるが、ロシアの海兵隊はアメリカの海兵隊と同じではないらしい。つまり、それ独自で作戦能力を持っているわけではなく、空軍や陸軍と共同して作戦行動を行う。逆に言うと、陸続きのエリアに対してサポート的に揚陸部隊を使用することになるため、オデッサを攻略するのでも難しい状況になっている。そうなると、そもそも、ロシアが日本を侵攻する能力は極めて小さいということになる。

拠点の確保とホストメル空港

ロシアはウクライナ侵攻の初期の段階でホストメル空港の確保をターゲットとしていた。CNNのジャーナリストが映しているがその特殊部隊で、かなり早い段階で送り込まれている。以下の動画に映っているのはロシア軍が空港奪取後にペリメターを敷いているところである。

https://edition.cnn.com/videos/world/2022/02/24/russian-troops-ukraine-kyiv-region-airbase-chance-nr-vpx.cnn

この部隊はヘリコプターによって送り込まれており、その様子が以下の動画に映っている。

Russian attack helicopters seen flying over the outskirts of Kyiv

今回、ロシアはウクライナの制空権を奪取した後、ヘリコプターで特殊部隊を送り、ホストメル空港を拠点として確保している。この空港を最初に抑えた理由は不明である。ここを使って人員を送りたかったのか、それともこの空港を利用した輸送を止めたかったのかは分からない。

日本においても、このような形で空港を確保し、ロシアが人員を送り込むことは可能である。ロシアがどうしてヘリコプターで特殊部隊を送り込んだのかは分からないが、ロシアの使っている輸送ヘリは2000キロの航続距離があり、同様の作戦自体は日本でも実行可能である。

どこを攻めるのか?

ロシアの部隊がウラジオストックから攻めるのであれば、北海道が攻撃対象になるわけではなく、日本海側であれば、どこでも攻撃対象になり得る。つまり、ここまで書いた手順通りにロシアが上手く実行すれば、同様の形で日本を攻撃することも可能である。しかし、その作戦がどれくらい継続できるかは分からない。日本の周りには海があるため、大量の人員をすぐに送り込むというのは難しい。

元々、日本は北海道防衛を意識しており、そのため陸上自衛隊の主力が北海道に駐屯している。ソビエトという意味においては、北海道侵攻の意味があり、そこで赤色政権を作れば、北海道自体を切り離される可能性はあった。

一方で、現状において、ロシアが日本に侵攻し、それに呼応する勢力が独自政権を作ることは考え難い。確かに、現状のウクライナ侵攻においても、ロシア側のプロパガンダを受け入れている人たちは多数存在する。その中にはロシア側のシンパもいるだろう。

ただし、冷戦崩壊前と比べると、ロシアは最早共産主義陣営というわけではなく、根本的に支持者が減っている。その上、極左のような人たちも減っており、ロシア側の侵攻に呼応するような人物が北海道知事をやっているわけでもない。だとすると、仮に現状のロシアが日本を攻めるのであれば、北海道を狙うと言うよりは、より東京を目指せる場所に拠点を作る可能性の方が高い。

リスクアセスメントの変更

現状において、ロシアが日本を侵攻する可能性は極めて低いだろう。そもそも、日本がロシアを侵攻する可能性はほぼゼロであり、隣国ではあるが、モスクワまで遠く離れているため、ロシアが日本に脅威を感じることもないだろう。ただし、それでもリスクアセスメントをちゃんとしておく必要はある。

今回のウクライナ侵攻において、今までよりもはっきりと現状のロシアの作戦能力が分かった。ロシアは強力な部隊を保有しているものの弱点も幾つかあり、少なくとも、現状の日本を簡単に攻略できるような能力は持っていない。それでも、侵攻の可能性がゼロではないため、ウクライナ侵攻の分析を通して、日本の北方からの脅威に対してリスクアセスメントを更新しておく必要がある。