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「新型肺炎・対策再精査」4・対策本部及び意思決定プロセス

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  • インフル特措法に関する混乱があったために、コロナ対策の意思決定プロセスは依然として複雑になっている。
  • 例えば、専門家会議と諮問会議という二つの組織が並立する状態になったりしている。
  • ただし、経済の専門家が諮問会議に参加することになったので、政府の政策は以前よりもバランスが取れたものになるだろう。
  • 今後に向けて、対策本部と諮問会議という二本立ての形で、本来的な感染症対策意思決定プロセスに戻した方が良い。

 

昨日、5月11日、政府は新型コロナウイルス対策の諮問会議に経済の専門家を入れることを決めた。これまでの日本政府の意思決定プロセスにおいて、経済の専門家がいないというのは問題の一つであった。それについても議論しようと思っていたが、その問題は解消されることになったので改めて議論する必要はなくなった。これまでの政府の意思決定へのインプットは医者に偏っており、参加メンバーも主張しているように、医者の意見だけでは経済的影響へのバランスが取れないために、経済の専門家を諮問会議に入れることが求められていた。

この諮問会議は、正式には、基本的対処方針等諮問会議と呼ばれており、新型コロナウイルス感染症対策本部に助言を与えるための組織である。この参加メンバーは以下のリンクで確認できる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9A%84%E5%AF%BE%E5%87%A6%E6%96%B9%E9%87%9D%E7%AD%89%E8%AB%AE%E5%95%8F%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A

政府はこれ以外にコロナウイルス感染症対策専門家会議と呼ばれるものも作っており、そのメンバーは全員が諮問会議のメンバーになっている。もしかすると経済の専門家が入るので、専門家会議のメンバーから諮問会議に入らない医者が出てくるかも知れないが、現状の参加メンバーは以下のリンクのようになっている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E5%AF%BE%E7%AD%96%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AE%B6%E4%BC%9A%E8%AD%B0

この二つの会議の存在は日本の意思決定プロセスが複雑になっていることを物語っている。政府の下にほぼ同じような意図を持った助言組織が二つあり、なおかつ、そのメンバーは被っている。

当初、日本政府は新型コロナウイルス感染症に対して、インフル特措法を利用しなかった。これは大きな問題になったので多くの人が知っているが、この法律に基づいた処置を執らなかったために初動が遅れ、そこには中国からの入国禁止も含まれている。政府は1月末になって新型コロナ対策本部を立ち上げる。この組織は実質的にはインフル特措法に基づいた対策本部であり、実際にも、その法律に基づいた対策を実行していく。しかし、法律上はインフル特措法に基づいていないため、諮問会議を利用しなかった。

本来であれば、諮問会議と対策本部で感染症対策を実行していくが、その形が取られず、対策本部の下にある対策本部幹事会も途中から利用しなくなったため、官邸の中の連絡会議で全ての対策が決定されることになった。その結果として起こった事象に関しても広範に知られており、政府の新型コロナウイルス対策に関して議事録も残されておらず、ほぼ全てがブラックボックスの中で決められた状態になっていた。

この際に議事録がないこと以上に問題になったのが、専門家の意見をくみ上げる仕組みがないことであった。政府は各方面からの批判を受けて、専門家会議を立ち上げる。実質的には、インフル特措法に基づく諮問会議の役割をこの専門家会議が担うことになった。これが専門家会議の来歴である。

3月になり、結局、政府はインフル特措法を利用することになった。それに伴って諮問会議が利用されることになり、専門家会議と諮問会議の二つが両立する形になった。ただし、専門家会議のメンバーは諮問会議に入っているため、両立すると言っても、対立する組織が二つ存在しているわけではない。

この諮問会議はインフル特措法18条4項に基づいている。「政府対策本部長は、基本的対処方針を定めようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。ただし、緊急を要する場合で、あらかじめ、その意見を聴くいとまがないときは、この限りでない。」

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031

つまり、インフル特措法では政府が新型コロナ対策を決定する際に、諮問会議の意見を聞かなければならない仕組みになっている。だからどうしても、諮問会議を利用する必要があった。一方で、意思決定プロセスという意味では諮問会議を利用することによって透明性が向上した。諮問会議は通常の政府の会議であり、議事録も残されていてブラックボックスの中で何かの議論がされるわけではない。

 

ここで新たな問題として浮かび上がってきたのが経済の専門家がいないという点であった。先のリンク先を見れば分かるが、諮問会議のメンバーはほぼ医者で構成されており、それ以外に弁護士が2人参加している。

インフル特措法の目的はその1条に記載されており、「新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする」となっている。つまり、経済に及ぼす影響を最小にすることが目的である以上、経済の専門家を入れる必要があった。

ただし、元々、経済の専門家が呼ばれていないのは仕方がないと思う。法律を読めば、医者以外に法律と経済の専門が必要になるのは分かるが、感染症対策は必ずしも経済に大きな影響を与えるわけではない。小規模なエリアにウイルスや細菌が入ってきて、その部分だけを防疫するのであれば、経済全体には影響を与えない。一方で、その小規模なエリアにおける人権問題や法関係を処理するために、弁護士を始めとした法律の専門家が必要であり、そう考えると、当初において医者がメンバーの中心で、それに加えて弁護士が呼ばれていたというのはメンバー構成として理解できる。

一方で、緊急事態宣言下において経済活動が大幅に制限されたため、そのような対策を導入するためには経済の専門家に意見を求める必要が出てくる。つまり、その時点では経済の専門家を諮問会議に入れる必要があった。ただし、もう経済の専門家を加えるのであれば、その是非を議論しても仕方がないので、しかるべき変更がされたものだと思っている。

 

経済の専門家を入れることによって、政府の意思決定にはある程度のバランスが達成される。しかし、依然として、現状の意思決定プロセスには混乱があるように感じる。それは当初においてインフル特措法を使わなかったために、対策本部を中心とした意思決定プロセスが出来上がっていないからだろう。特に、依然として、誰が権限を持っていて、誰が決定をしているのかが分かり難い。新規感染者の増加が落ち着き始めているので、第2波が来るまでに、この部分を整理しておいた方が良い。

今後の新型コロナウイルス感染症対策はインフル特措法に基づいて、対策の中心は対策本部と本部長とする。首相である本部長はインフル特措法に基づいて一部の権限を対策副本部長に委任できることになっており、実際に、担当大臣が副本部長として現状のコロナ対策を取り仕切っている。その副本部長の下に対策本部の職員が付いており、そこで省庁間の総合調整と対策本部のアジェンダ設定を行うべきである。その上で、最終決定を対策本部長に仰ぐ形の方が意思決定プロセスは明確化される。

その上で、対策本部が対策を大きく変更したりする場合には諮問会議に意見を諮ることになる。あるいは、諮問会議が意見を出して、対策本部がそれを受けるという形もあるかもしれない。いずれにせよ、対策本部の対になるのは諮問会議であって、専門家会議ではない。もちろん、専門家会議と諮問会議のメンバーは被っているので、その点においては大きな問題はない。

専門家会議を維持する場合であっても対策本部の下の専門家会議にはせず、諮問会議の下の専門家会議にすべきである。専門家会議が対策本部の下にあって、それとメンバーが被っている諮問会議に対策本部が意見を求めるのは意思決定プロセスとして危険でしかない。このような形で現状の意思決定プロセスは複雑になっており、誰がどのような権限を持っているか分からないだけでなく、どこでどのような決定がなされているのかも分からない状態になっている。ここでもう一度仕切り直しということで、対策本部と諮問会議というセットで意思決定を行った方が良い。

一方で、次に感染症の蔓延が起こった際には、このような複雑な問題は起こらないと思う。このような状況になったのは、当初にインフル特措法を利用しなかったからであり、おそらく、次の機会には最初から対策本部と諮問会議がセットで設定されるはずである。