要点
- 閉じられた空間におけるリスク管理の方法はクリーンルームのクリーン度管理に類似している。
- マスクの使用は今シーズンにおけるインフルエンザ感染率を大幅に低下させている。
- マスクはインフルエンザウイルスと同様、コロナウイルス予防にも効果がある。
閉じられた空間において、ウイルス濃度が上がれば、飛沫感染するという病気であっても空気感染する。それはより多くのウイルスに晒されるからであり、今回の新型肺炎を引き起こすコロナウイルスにおいても、このような形で空気感染する。エアロゾル感染という言葉は極めて奇異であり、エアロゾル感染とはそもそも空気感染を指しているので、別の言葉を使う意味がない。
問題はどのような空間であれば、感染のリスクが高まるのかという問題で、それもここまでに書いて来た通りである。つまり、乾燥していて、暖房が使われているような閉鎖空間であれば、ウイルスを内包したエアロゾルが更に小さくなり、かつ、暖気に乗って長時間空気中に滞留するようになる。
これに対処するためには部屋を換気して、乾燥を防ぐ状態にしながら、暖気が滞留するのを避けるようにする。今回の新型肺炎に関して、どれくらいの環境を作れば良いかを考える上で、クリーンルームのアナロジーが示唆的だと思う。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%A0
クリーンルームはクリーン度によってランクわけされている。クリーンルームが必要な作業工程であっても、全ての作業をクラス1のクリーンルームで行う必要はない。常にクラス1のクリーンルームで行うとコストが高すぎて、普遍的に利用できなくなる。一般産業においてはクラス6のクリーン度で十分な場合もあり、それは作業の内容に応じて合わせる。つまり、何でもクラス1のクリーン度が求められるわけではない。
今回の新型肺炎においても同じような議論ができる側面がある。例えば、マスクの議論においても一般的なマスクで十分にリスクを下げられる。一方で、患者が10人もいるような部屋であれば、普通のマスクでは防ぎきれないかも知れない。条件によってリスクが変化するため、確率的に危険度は判断されるべきであって、常にゼロサムの結論にはならないはずである。
つまり、リスクをゼロにできないからどんな状況でも構わないという議論はおかしい。環境を変化させれば、感染のリスクは変化するため、それに応じたリスク管理が必要になる。少なくとも、決定をする前にそのようなリスクを考慮する必要がある。
例えば、患者が増えれば普通の病院で引き受けるしかなくなるが、そうであったとしても、どのような環境にすればリスクが低下できるかをちゃんと考える必要がある。ゼロにできないから考えないというのも、また極端な思考であり、クリーンルームのクリーン度の考え方はかなり示唆的である。
自分は医者ではないが、ここまでの議論から導かれる単純な答えが一つある。普通の人はウイルス除去レベルの普通のマスクを付けて、手洗いし、部屋を頻繁に換気し、人混みにはあまり行かず、体の免疫力を高めるような食生活をすれば感染リスクを下げられる。そして、このうち、今までの生活から根本的に違うものはマスクである。つまり、マスクはかなり効果がある。
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/flu/flu/
上の図は東京都のインフルエンザ感染数を示したグラフである。今シーズンは赤い線で現わされているが、昨年末は数年来最大の感染数であったが、今年に入ってから明らかにインフルエンザに感染者数が減っている。
この一番の大きな要因は、新型肺炎を恐れたために多くの人がマスクを付けるようになった結果である。つまり、マスクはインフルエンザ感染を低下させており、同様に新型肺炎にも機能する。エビデンスがないというのはエビデンスを見ていないだけであり、現実的にはマスクは新型肺炎にとってもかなり有効な手段である。
論文はかなり読んだが、簡潔に分かりやすい物を3点。
- 置換換気される病室内の咳による飛沫・飛沫核の挙動に関する研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2017.4/0/2017.4_109/_pdf/-char/ja
- 空気中における噴霧水粒子の挙動解析に関する基礎的研究
http://www.arch.eng.osaka-u.ac.jp/~labo4/www/paper-top.files/2011_pdf/2011aij_k/11-b-01.pdf
- 不織布マスクの性能と使用時の注意
https://www.env.go.jp/air/osen/pm/info/cic/attach/briefing_h25-mat04.pdf