
要点
- 中国語の発音を知らなくても白文は読める。
- おそらく漢文を音読みしても、それほどの不都合はない。
中国語の発音はピンインと呼ばれており、それ自体はそれほど難しくない。それはアルファベットで表記されており、新しく文字の形状を覚える必要はない。ただし、ピンインの発音は英語そのままではないため、それぞれのアルファベットがどのように発音されているかを覚える必要がある。それさえ出来れば、あとは漢字に発音が一つ追加されるだけである。
元々、日本人は一つの漢字に対して複数の読みを紐付けている。だから、新しくピンインが加わったとしてもそれほど困難ではない。アルファベットの音読みが一つ加わった程度でしかない。それに日本語の音読みと現代中国語のピンインには似たような発音も存在するので、日本語から中国語への転換は他の言語の話し手よりも容易である。
ただし、日中の発音体系には根本的な差も存在する。中国語は特殊なr音の使い方をするが、それは日本語とは全くかけ離れている。また、空気を出さずに発音する無気音のような口や喉の使い方がある。そういう意味において、中国語には単に音読みを覚える以上の難しさがある。
それに加えて、声調はもっと難しい。声調は言葉の上下のことを指すが、これは覚えるというよりも慣れない限り使いこなせないと思う。
イメージで言うと、標準語の話し手が使う関西弁のようなものである。関西弁は基本的に全てカナ表記でき、また発音もほぼカナ表記通りである。そういう意味では、言葉を覚えればそのまま喋れるはずだが、特殊な単語・文法以上にイントネーションに大きな問題が現れる。
このイントネーションこそが中国の声調と全く同じ物である。ディープな関西弁になるとかなり大きなイントネーションの上下が存在するので、カナ表記だけでは喋りきれない。それと同じ問題が中国語にもあって、ピンインを覚えたとしても声調を完全に使いこなすためには慣れが必要になる。
話を戻すと、ここまでして中国語の発音体系を覚えなくても漢文の白文は読める。現実的に、中国語で何と発音して良いか分からない文字に出くわすと、ナチュラルに音読みになっている。あるいは、日本語で慣れていて中国語では慣れていない言葉出てくると、速読していると日本語読みになったりする。
例えば、前回の続日本紀で言えば、「臣菅野朝臣真道等奉勅撰」という部分があり、菅野朝臣が勅撰を奉じたことになっている。この際、「菅野」は大体の人が中国語読みではなく、「かんの」と読むと思う。逆に言うと、そう読んだ方が意味を理解する上では正しい。
つまり、理解するという目的であれば、漢文を中国語として理解する必要性はなく、音読みで白文として読めば良い。そのためには初級の中国語文法だけで良い。それは同時に、返り点を覚える必要が全くないことを意味している。