要点
- 現在の文科省の調査方法では、いじめの根本的要因は分析できない。
- いじめを根本的に抑制する方法は依然見つかっておらず、だからこそいじめは増加し続けている。
- 新法制度によりいじめの重大事態が公表されるようになったため、その分析が行われれば、より実効的な方法論に結びつくかも知れない。
いじめの態様も文科省によって調査されており、統計として公表されている。
最も多いのは一番上の項目で、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」になり、6割以上がこの項目に入っている。ただし、合計が100%にならないので、この統計は複数回答が可能になっている。
この統計がどのように取られているかを考えると、実際にいじめが起こった際に報告書が作られ、その報告項目にこのいじめの態様が入っているのだと思う。そして、ある程度統計としてまとめる前提で報告書が作られているため、これらの項目は選択式であって、個別の文言からこれらの区分が抽出されたのではないはずである。
そう考えると当たり前かも知れないが、調査項目は典型的ないじめの態様を羅列しているだけに見える。もし仮に、これがいじめの深刻度を調査する目的であれば、はっきりとそのように明示した方が統計的には意味がある。
現状の調査であれば、どうしていじめが起こったのかも把握できなければ、どれくらい深刻ないじめが起こっているのかも分からない。意図的に統計値を集めているのであれば、もう少し方向性のはっきりした調査方法に変えた方が良い。
この調査の不完全さが問題になるのは、いじめのきっかけを理解するためにはこれ以上の調査項目がない点にある。つまり、文科省にしてもこのデータだけでいじめがどうやって起こっているかを分析できるはずがなく、その上に、これ以上の有用な情報がない状態にある。その結論は明らかで、文科省はどうすればいじめが抑制されるか分からないはずである。
いじめの新法制度ができた結果、文科省はこのいじめ統計に加えて、いじめの実態調査のために、特に重大事態に陥った案件に関して詳細調査を行うようになった。その調査報告書の内容は以下のようになっている。
「(調査報告書の内容)重大事態の調査については、国の基本方針では、重大事態に至る要因となったいじめ行為が、いつ(いつ頃から)、誰から行われ、どのような態様であったか、いじめを生んだ背景事情や児童生徒の人間関係にどのような問題があったか、学校・教職員がどのように対応したかなどの事実関係を可能な限り網羅的に明確にすることとされている。このほか、調査報告書の内容は、自殺調査指針及び不登校調査指針において、事項例が示されている。例えば、自殺調査指針では、報告書の内容(目次)の例として、①要約、②調査組織と調査の経過、③分析評価(調査により明らかになった事実、自殺に至る過程、再発防止・自殺予防の課題、特定のテーマ)、④まとめ等が示されている。」
これは平成25年に成立した「いじめ防止対策推進法」に基づいて行われる調査で、その20条には以下の項目がある。
「(いじめの防止等のための対策の調査研究の推進等)
第二十条 国及び地方公共団体は、いじめの防止及び早期発見のための方策等、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言の在り方、インターネットを通じて行われるいじめへの対応の在り方その他のいじめの防止等のために必要な事項やいじめの防止等のための対策の実施の状況についての調査研究及び検証を行うとともに、その成果を普及するものとする。」
実際に、地方自治体は既に重大事態を公表しており、幾つかの報告書に目を通してみた。正直なところ、一つ一つの報告書はそれぞれの個別事案の時系列を報告していて、それだけでいじめ問題の全体像を掴むことは出来そうにない。一方で、多数の報告書を横断的に分析すれば、いじめ問題の根源的理由を見付けられる可能性は残されている。
ただし、現状において、文科省が横断的にいじめを分析したような報告書は公表していない。この辺りの問題を整理すれば、いじめの防止に繋がる施策が生み出せる可能性は十分にある。現状においては、まだ方向性が見いだせない状態であり、だからこそ、いじめは増え続けており、子供の自殺も増え続けている。