「新型肺炎・対策再精査」2・PCR検査

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  • 日本の新型コロナウイルスPCR検査能力は一時期かなり不足していた。
  • PCR検査能力が拡充できなかったのは、検査システムが複雑だったからである。
  • 行政は複雑な検査システムを面的に拡大させたために、膨大な医療リソースを奪うことになった。
  • 検査プロセスを単純化させる必要があり、韓国のドライブスルー方式は当初からかなり合理的であった。
  • 将来に同様の感染症問題が起こった際は、医者の問診と検体収集を集約化して単純化させる必要がある。
  • 現在の日本のPCR検査体制は失敗しており、新型コロナウイルスの検査拡大は更に医療リソースを奪ってしまう。
  • 日本ではPCR検査拡大が最早困難であり、抗原検査等の簡易検査キットを早急に導入した方が良い。

 

日本のPCR検査数をどう評価すれば良いのか?数ヶ月間もこの議論が続いているが、実際の所、論点は明確であり、PCR検査をもっとすべきか否かだけである。しかし、それぞれの立場に基づいて主張が展開されるケースが多いため、大多数が納得するような解には行き着けそうにない。

ただし、日本のPCR検査陽性率の推移を見ると、3月半ばから4月に掛けて陽性率が極めて高かった時期がある。特に、それは東京において顕著であり、現在こそ1桁台に落ち着いて来たものの、4月中の最大値は31.6%にまで昇っていた。それは明らかにPCR検査能力が足りていなかった証であり、日本政府はもう少し早くPCR検査能力を拡充すべきだった。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200508/k10012423091000.html

もちろん、政府もこの問題に気づいており、5月に入って、専門家委員会はどうしてPCR検査が拡充されなかったかの理由を公表した。それを抜き出すと以下のようになる。

日本でPCR等検査の能力が早期に拡充されなかった理由

①制度的に、地方衛生研究所は行政検査が主体。新しい病原体について大量に検査を行うことを想定した体制は整備されていない。

②その上で、過去のSARSやMERSなどは、国内で多数の患者が発生せず。日本でPCR等検査能力の拡充を求める議論が起こらなかった。

③そのような中で、今回の新型コロナウイルスが発生し、重症例などの診断のために検査を優先させざるを得ない状況にあった。

④専門家会議提言等も受け、PCR検査の民間活用や保険適用などの取組を講じたが、拡充がすぐには進まなかった。

PCR等検査件数がなかなか増加しなかった原因

① 帰国者・接触者相談センター機能を担っていた保健所の業務過多、

② 入院先を確保するための仕組みが十分機能していない地域もあったこと、

③ 地衛研は、限られたリソースのなかで通常の検査業務も並行して実施する必要があること、

④ 検体採取者及び検査実施者のマスクや防護服などの感染防護具等の圧倒的な不足、

⑤ 保険適用後、一般の医療機関は都道府県との契約がなければPCR等検査を行うことができなかったこと、

⑥ 民間検査会社等に検体を運ぶための特殊な輸送器材が必要だったこと

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000627559.pdf

以上のように、日本政府自体がPCR検査不足を認めているため、本来的にはPCR検査をもっとすべきだったかどうかは議論しても仕方がない。一方で、議論すべきは、この専門家会議が示した検査不足理由をどう考えるかである。実際に、この理由説明は良く出来ており、どうしてPCR検査が拡大できなかったかが分かる。ただし、この分析ではどうすればPCR検査が増やせたかは一切分からない。どちらかと言うと、国や専門家会議はPCR検査を拡充するのは不可能だったと主張しており、行政には一切の落ち度がない不可抗力だったと説明している。

現実的には、不可能だったはずはない。一人当たりの検査数はOECDで下から二番目であり、とてつもなく少ない。

oecd

https://spc.jst.go.jp/experiences/coverage/coverage_2012.html

日本以外の国もいろんな問題を抱えた中でPCR検査を拡充しており、日本だけが検査拡充が不可能だったはずがない。ただし、専門家委員会が示した拡充できなかった10の理由を読めば、どうすれば拡充できたかが分からない。

出来なかった理由をどれだけ上手く説明しても、未来には全く繋がらない。と言うよりも、このままだと将来に同種の感染症が起こった際にも、日本は検査拡充が不可能になってしまう。しかし、現実的には日本以外のほとんどの先進国はPCR検査を拡充させており、専門家委員会の説明をそのまま受け入れろというのかかなり乱暴な話である。そして、専門家委員会の説明は呪縛のようになっており、この言説を全て受け入れると、検査不足は不可抗力であり、将来においても同じ問題が起こることになってしまう。

 

つまり、国や専門家委員会とは違う観点から、この問題を捉え直すしかない。彼らの説明の根本は日本がPCR検査を大量に行う体制になかったという点にある。それは事実だと思うが、日本の感染症対策において、インフルエンザ等のパンデミックが起こった際には通常の診療体制から一気に拡大することを前提としている。つまり、最初から検査を拡大するという前提で感染症対策が考えられているため、PCR検査を大量に行う体制にないは当たり前であり、どうして増えなかったかこそが問われる問題になる。

日本は新型コロナウイルス感染対策として、最初に帰国者・接触者相談センターを設置した。そこで相談を受け付けた後に、帰国者・接触者外来に電話予約し、診療するという手筈になっていた。そして、医者が必要と見なせば検査が確定し、保健所がPCR検査の日程を決め、最終的に検査という流れになる。このフローを別の形で書くと以下のようになる。

 

相談、患者>帰国者・接触者相談センター

紹介、帰国者・接触者外来

予約及び受診、患者>帰国者・接触者外来

検査連絡、帰国者・接触者外来>保健所

検査予約、保健所>患者

PCR検査、患者>保健所あるいは地衛研

検査結果、保健所>検査

 

この検査過程は件の37.5度の発熱が4日間続いた後に、保健所から検査を認められた後に進む流れである。このシステムは複雑すぎるため、これでは検査が拡充できない。と言うよりも、検査にまでたどり着けないように複雑なシステムにしているのではないかと疑いたくなってしまう。その上、検査までに物理的に時間が掛かりすぎる。待機、予約、予約と途中に入り、予約時間とスロットが合わなければ、更に診療や検査が後日に回されてしまう。これでは患者がPCR検査に辿り着くのは大変な作業になる。

そこで国が採った政策が二つあり、一つは帰国者・接触者相談センターの負荷を下げるために、かかりつけ医や一般の医療機関で患者が受診できるようにした。そして、検査の方も保健所・地衛研だけではなく、民間検査機関へと拡充した。先に書いたフローでは説明していないが、帰国者・接触者相談センターも保健所が運営している。つまり、全てのプロセスにおいて保健所・地衛研の負荷が掛かるような仕組みになっており、それを解消するために、人員拡充ではなく民間病院のキャパシティを利用する方向性へと進んだ。そのためにPCR検査の保険適用が認められるようになる。

この検査システムは元々複雑であったが、保険適用の検査を認めたため、検査が更に複雑になってしまった。結果として、確かに検査数は増えたものの、違う問題が生じてきた。民間検査機関を使う仕組みにしても、検査場所にまで行かなければならないのであれば、元々生じていた問題は解決出来ない。確かに、検査までの体制が量的に拡大されたので検査自体は増えるが、そのまま増やしたため膨大なリソースを奪うようになる。結果として、感染防具不足は起こるだろうし、そして、一部の地域を除いては保険適用が進まず、保健所と地衛研の能力限界で止まってしまう。つまり、専門家委員会が指摘している問題はこういう背景で生み出されている。

この過程のどこがボトルネックかと言えば、全てがボトルネックになっている。そして、システムの問題を解消する方向ではなく、システム自体を面的に拡大させたために、おそらく、もう変えられないだろう。個別の病院が帰国者・接触者外来を開き、患者を見始めているのは良いことである一方、一つ一つの問診に時間と装備が必要になり、多くのリソースが割かれていく。それが保険適用の枠組みで動き出しているため、元に戻すのは無理だと思われる。

 

元々、こういうシステムにすべきではなく、どこかで根本的に改善させる必要があった。合理的に考えると、問診と検査を同じ場所で行えば、あるいは同じ敷地内のライン上で行えば、もっと効率的に検査まで行えた。フローで書くと以下のようになる。

 

相談・電話予約、患者>保健所

問診・検査、患者>医者及び検査士

結果報告、保健所>患者

 

PCR検査のプロセスをこれだけ単純化すれば良かった。そして、問診一回ごとに装備を換えなくて済むように最初から屋外で問診を行い、そこに検査設備を用意すれば良かった。帰国者・接触者外来自体をそうやって設置しておけば、システムの複雑さを回避できた。

韓国は2月26日からドライブスルー検査を実施しており、ニッセイ基礎研がまとめメリットは以下のようになっている。

「受付から問診表の作成、医療スタッフとの面談、体温の測定、鼻と口からの検体採取までの全プロセスにかかる時間は10分程度で、すべての検査は車に乗った状態で行われる。ドライブスルー検査のメリットとしては、1)室内に入らないため、患者の出入りにともなう消毒を行う必要がないこと、2)消毒などの時間が室内に比べて少なくてすむため検査の時間を短縮できること、3)待機中の交差感染懸念を和らげられること、4)屋外なので早く設置できることなどが挙げられる。」

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63803?site=nli

これは2月28日のレポートであり、こうやっていれば、専門家会議が書いている問題点は最初から起きなかった。この検査方法を実行する上での問題点は、検査士が病院に行くか、医者が保健所か地衛研に行く必要がある。あるいは、中間の施設を作る必要があったのかも知れない。その作業をやらずに、行政は当初の検査フローを維持しようとしたため、感染者が増えすぎた時に保健所も地衛研も外来も回らないようになった。

この流れを鑑みるに、根本的に大量検査が出来ないという前提があったように感じる。行政の説明をそのまま受けると、患者が大量に発生すると医療崩壊が発生するという主張があった。それが理由なのか、他に理由があるのかは分からないが、実際に、行政はPCR検査がやり難いシステムを最初から導入している。その上で、相談者と感染者が増えたために、そのシステムの延長線上で検査量に対応しようとし、結果として膨大なリソースが利用され、かつ、保健所等には極端な負担が掛かるようになった。

今からふり返れば、この拡大する局面において韓国はドライブスルーを導入している。あの方式を導入していれば、日本では現状のようなPCR検査負荷は掛からなかった。医療崩壊にしても軽傷者を病院以外で受け入れる体制に変えていれば、最初の時点で問題をかなり軽減できたはずだった。結論として、行政はあまり複雑に考えず、合理的に政策導入を判断すべきだった。

 

将来においても、新たな感染症により、日本は同じような状況に置かれることがあるかも知れない。その際は、検体収集と医者を同じ場所に配置すべきである。それがドライブスルーである必要性はないが、少なくとも検査フローを単純化させないと、医者、保健所、患者も含めて、みんなの負担が掛かり過ぎる。

今からでもこのようなシステムに換えられるかという問題になると、いろんなところから不満が出てくるため、それを押さえ込める政治家や官僚がいるのかは分からない。つまり、第2波が来た際に日本でのPCR検査拡大は諦めた方が良い。いずれにせよ、今のシステムのままではどうやっても検査が増えない。ほぼ全ての過程がボトルネックになっており、増やすためには面的な拡大しかないため、更に膨大な医療リソースを割く必要が生じる。

それよりは簡易検査キットを導入した方が良い。抗原検査等を導入して、それを病院で利用すれば、病院に1回行くだけで済み、検査結果までも時間が掛からない。抗原検査では偽陰性が出るため、濃厚接触者の検査等、どうしてもPCRによる再検査が必要な場合だけ、保健所での検査に回せば良い。今のシステムは残念ながら失敗しており、PCR検査をこのまま拡大できない。

 

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