「新型肺炎・対策再精査」1・検疫と隔離

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  • 検疫法5条をそのまま読めば、入国後であっても一定程度の強制隔離は可能である。
  • ただし、武漢からの帰国者を14日間隔離した実効的な効果はあまりなかった。
  • 一方で、どのような感染症か分からない際に、今後も初期対策として一定程度の隔離施設収容はあり得る。
  • その際に、行政施設の研修施設が利用でき、実際にはかなりの宿泊能力がある。
  • 日本の問題は帰国者を隔離しなかったことにはなく、空港でのPCR検査が遅れて始まったところにある。
  • 検疫、隔離、行政施設の利用、自衛隊のオペレーション等、次回のために一連の流れを再確認しておく必要がある。

 

日本で新型コロナウイスルの最初の感染者が確認されたのは今年1月で、それからもう4か月近くになる。これまでの過程で様々な感性症対策が実施され、その中には上手く行った方策もあれば、結果が出なかったものや遅れが目立ったものもある。それらをもう一度ふり返り、新型コロナウイルスの第二波への対策、あるいは、今後の政府の感染症対策のあり方を考えたい。

まず最初に議論するのは検疫である。現在、海外からの帰国・入国者は空港で検疫を受けている。この水際対策が新型コロナウイルス感染症対策の一つの柱で、5月7日時点で148人の陽性者を特定している。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11189.html

新型コロナウイルス感染症の初期検疫は問診の提出であり、そこからPCR検査へと展開して行った。その中で最初の大きな難関は武漢からの帰国者だった思う。日本政府は都合5回の帰国便を用意し、829人を帰国させた。彼らは帰国後にほぼ全員隔離施設に収容されており、空港検疫と14日間の隔離がセットになったケースだった。しかし、この際に隔離されたのは帰国者全員ではなかった。本人の同意がなければ強制的に隔離できないという話になり、数人が隔離施設に入らなかった。

これは検疫法の解釈の問題であり、法律的には強制隔離は可能だと思う。検疫法5条によると、「外国から来航した船舶又は航空機については、その長が検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、何人も、当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚げし、又は当該航空機及び検疫飛行場ごとに検疫所長が指定する場所から離れ、若しくは物を運び出してはならない」となっている。

ダイヤモンドプリンセス号の乗客が船から降りられなかったのは、この条文に依拠している。つまり、強制敵な隔離は可能である。おそらく、帰国して日本のゲートを越えた際に強制隔離できるのかという所に法律上の問題があるのかも知れない。ただし、それは法律の解釈の問題であって、検疫所長に隔離する権限があるのは間違いない。ゲートの内側か外側かはテクニカルな問題であって、法律の運用を変えるだけで済むはずである。ただし、その隔離が合理的なものでなければ、隔離という行為自体が人権の問題に関わるのは間違いない。

そうなると、隔離が機能したかどうかが次なる問題になる。新型コロナウイルス感染症の潜伏期間は平均約5日であり、長い場合は発症までに2週間ほど掛かる。実際に、武漢からの帰国者で、帰国当初の検疫においては陰性であり、その後に陽性になった感染者が3人いる。つまり、隔離にはそれなりの意味があった。ただし、この3人のうち2人は隔離施設で発症して陽性であることが確認されたものの、もう1人は隔離施設を拒否して自宅に帰った後に感染が確認された。そういう意味では、強制ではなかったために問題が生じた。

この問題は別の角度から考えることもできる。厚労省のHPで感染場所を確認した結果、武漢からの帰国時点の陽性者は9人に上った。一方で、初期陰性後に陽性と判明した感染者は3人である。つまり、12人の陽性者のうち3人が潜在的な陽性者であった。比率的には25%になるが、全体のサンプルが12人と少ないため、この数字をそのまま受け取って良いのかどうかは分からない。ただし、少なくとも、体内のウイルス量が少なくてPCR検査で陽性にはならない潜在的な感染者が存在することだは間違いない。

仮に、このような潜在的な感染者が全体の帰国感染者のうちの20%だと仮定して、どのようなインパクトがあるかを考えてみる。現在、日本全体の帰国時陽性者は148人に上っている。これが全体の80%だとすると、帰国時PCRをすり抜けた潜在的な陽性者は37人になる。

PCR検査を受けた帰国者は31638人いるため、そのうちの37人、つまり0.12%が潜在的な陽性者の可能性があることになる。一方で、武漢の場合は869人の帰国者の内3人の潜在的陽性者がおり、それは0.36%になる。確かに、武漢の帰国者は潜在的陽性率が3倍高いとは言えるが、結局のところ、潜在的陽性者は3人しかおらず、またそのうち1人は隔離施設を拒否して家に帰っているため、隔離自体が機能したかどうかは判別しがたい。

この1月末・2月頭の時期をふり返ると、現実的には、武漢からの帰国便の帰国者を14日間隔離するしかなかったと思う。それが実効的だったかどうかというよりは、依然として、どのような感染症か分かっておらず、どれくらいの潜在的陽性者がいるかも分からなかった。だから、結論として、隔離するしかなかったと思う。

一方で、現実的には、隔離せずに自宅での自己隔離でもそれほど大きな差は生み出されなかっただろう。結局、現在において、3万人の海外からの帰国者がおり、148人の陽性者が確認されており、おそらく40人近くの潜在的陽性者が自宅で自己隔離された状態にあると思う。この40人近くに関しては帰国者全員を隔離することによって、国内に新型コロナウイルスを入れることを抑えられた。

ただし、3万人を隔離施設に入れるのは無理である。3万人を隔離すれば、40人近くの感染者を完全に把握できるかも知れないが、そこまでの施設も能力も政府にはない。つまり、武漢のケースは特殊であったと言える。

 

この潜在的な40人近くが日本全国に新型コロナウイルスの感染源になったのかと言うと、実際はそういうわけでもない。日本では最初から空港検疫が行われていたわけではなく、PCR全員検査は以下のようなスケジュールで展開された。

  • 3月 9日~ 中華人民共和国、大韓民国
  • 3月21日~ ヨーロッパ諸国、イラン、エジプト
  • 3月26日~ アメリカ
  • 3月28日~ インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、イスラエル、カタール、コンゴ民主共和国及びバーレーン
  • 4月 3日~ その他全ての国・地域

https://www.pref.tottori.lg.jp/item/1196157.htm

日本で感染が広がったのは検疫から隔離という流れをしなかったからではなく、空港でのPCF検査が遅れたところにある。中国の習近平主席の来日中止が3月5日であり、オリンピックが正式に中止になったのは3月24日である。日本政府は何らかの理由で空港検疫を遅らせており、その結果として、空港検疫を通した水際対策が後手に回った。日本の空港検疫は2月7日までにPCR検査を行える態勢を整えていたようであり、空港検疫がこんなに遅れたのは検査態勢とは違うところにある。

https://www.sankei.com/west/news/200402/wst2004020025-n1.html

 

今後の方針として言えることがあるとすれば、ある地域で感染が拡大した兆候が現れれば、すぐに検疫対象とすべきである。

 

一方で、隔離は難しい問題である。中国は全ての帰国者・入国者を隔離している。潜伏期間も考慮して14日間隔離しており、ずっとホテルに留め置かれる。普通に考えて、日本ではこのようなコストの掛け方も、強制的な隔離も実行できない。確かに、初期の検疫では潜在感染者を見逃すのは分かっているが、それでも、隔離できるかどうかはそれぞれの条件に依存する。

例えば、危険性が高ければ、隔離するしかない。それがダイヤモンドプリンセス号のケースだった。乗客を船内に隔離したため、確かに、新型コロナウイルスの侵入を防ぐことができた。一方で、14日間隔離したにもかかわらず、下船後に発症した感染者が多数いた。それは船内での隔離という方法論が危険だったことを意味している。アメリカはグランドプリンセス号で同様の問題が起こった際に、乗客を下船させて隔離することになった。この際、下船者の多くが米軍の施設で隔離されることになった。日本ではそれだけの人員を隔離する施設がないと言われていた。

一方で、武漢からの帰国者は800人近くおり、200人近くの帰国第一便の乗客はホテル三日月に泊ることになった。その後の帰国便の乗客は行政の研修施設に入れられることになった。この過程をふり返ると、実際には行政の研修施設で隔離することは最初から可能だったはずである。おそらく、今回が初めてのケースだったために研修施設を利用するという方法が思い着かなかったのだと思う。それは仕方ないことであるが、今後を考える上では、既に行政の施設が使えることが分かっており、その一覧が以下のリンクに記されている。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000094129.pdf

警察大学校には1338人分の宿泊部屋があり、関東管区警察学校には1888人分の部屋がある。これだけで3千人を超えており、日本にも十分な施設がある。警察の研修施設は関東以外にもあり、例えば、近畿管区警察学校には836人分の部屋がある。また、財務省は税務や会計関連の複数の研修施設を保有しており、そこもかなりの収容能力がある。と言うことなので、次回から同様の問題が起これば、これらの行政の施設を利用すれば良い。これらは国の施設であるため、どのような条件下にあっても優先的に使用できる。

ただし、そのまま警察や財務省がオペレーションできるとは思えない。防疫を徹底する必要があり、オペレーションは自衛隊に任せた方が良い。また、防疫のノウハウを自衛隊に集積する方が今後にも役立つ。つまり、施設は警察庁や財務省が出し、オペレーションは自衛隊が引き受け、権限は厚労省に所属する検疫所長が持つという形になる。検疫後の隔離を想定していなかったため、日本ではこのようなオペレーションプランが出来ておらず、それが混乱を引き起こした要因の一つである。

ここでまた話が戻るが、そもそも隔離は必要だったのかというのは根本的な問題である。現実的には、隔離はそれほど効果的ではなかったと言えるが、一方で、どのような感染症か分かっていない段階では武漢からの帰国者は潜伏期間の14日間は隔離するしかなかったと思う。一方で、それ以降の帰国者は隔離する必要もなかったし、隔離する施設もなかった。中国のようにホテルを借り切って完全隔離するのは異例であり、日本は自己隔離を求めるしかない。

一方で、今後、何らかの疫病が起こった際に、今回と同じような隔離という初期対策を採る場合があるだろう。その際を見据えて、空港検疫から隔離までの法律とオペレーションの再確認をしておく必要がある。

 

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