要点
- エアロゾルは空中を浮遊している塵のような物質を指す。
- 飛沫の一部は体積が小さく、そのまま浮遊してエアロゾルになる。
- そのような飛沫に病原体が含まれている場合、空気感染することがある。
- 空気感染するかどうかは空気中の病原体の濃度と感染力に依存する。
一般的なマスクが新型肺炎予防に効果があるかないかについて、相反対する二つの意見が交わり合うことなく流布されている。マスクには意味がないと主張する中には多数の医者もいるため、どこに問題があるのかを突き詰めて調べて見た。
結果として、マスクには効果があるが、効果がないと言っている医者の主張に根拠がないわけでもない。ただし、言語上の問題か、認識上の問題があって、相互理解が欠落している状況にある。それは、この問題に関連する多くの知識が上手く共有されていないところに問題がある。それは一般国民の間に共有されていないという意味でもあるが、それ以上に、医者の中においても関連分野の知識が共有されていないという問題がある。
そもそもエアロゾルという言葉の理解にも問題がある。エアロゾルとは空中を浮遊している物質を指す。例えば、花粉はエアロゾルであり、PM2.5もエアロゾルである。そして、光化学スモッグも黄砂もエアロゾルである。つまり、空中を浮遊している塵のような物質はエアロゾルであり、環境関連等の一定の学問領域ではそれなりの知見が集積されている。これらの知見は必ずしも医者には共有されていない。
一方で、ウイルスや菌も空中を浮遊する物質の中に付けばエアロゾルになる。医者の認識としては飛沫核がエアロゾルだと言うことになっている。飛沫が乾燥して飛沫核になると、空中を浮遊し出すのでエアロゾルになるという認識である。確かに、それ自体が間違っているとは言い難いが、このイメージの中にそもそもの問題が内包されている。
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/b-online/hyougo-201602.shtml
人間が咳をすると口から飛沫が飛び出す。それが空中にあれば、それ自体がエアロゾルと言えないこともないが、大きいな飛沫は重力に従ってすぐに下に落ちる。一方で、小さな飛沫は空気抵抗が高いので、より長い時間、空気中に残る。これこそが一般的なエアロゾルである。その空気抵抗は形状にも依存しており、細長い形状であれば、同じ体積と密度を持っていても長く空気中に留まる。
これを図で表すと以下のようになる。
ここがポイントである。医学の中ではエアロゾルとは飛沫が乾燥した飛沫核だということになっている。それも嘘ではないが、一般的に考えて、全ての飛沫が同じ大きさのはずがなく、大きな物から小さな物まで存在する。図は横軸に大きさを取っていて縦軸にウイルス量を取っている。実際のところ、大きな飛沫により多くのウイルスがいる。一方で、大きな飛沫は数が少なく、ある一定の大きさを超えるとゼロになる。つまり、どこかで収束する。反対側に関しても、コロナウイルスの大きさが0.1ミクロンであるため、どこかでウイルス量もゼロになる。結果として、ウイルス量は図で示したように凸型の形状を持つ。もちろん、正規分布であるかどうかまでは分からない。
空気感染とは、根本的に、このエアロゾル部分で感染することを指している。例えば、結核は空気感染する。結核患者の飛沫においても図のような結核菌量の分布をしている。それでも空気感染するのは一部のエアロゾル化した量であっても感染力が強いために、容易に感染するからである。つまり、それが空気感染である。
空気感染とはエアロゾルを通した感染のことを指す。そして、飛沫感染する病気は常に空気感染する可能性がある。一般的に、飛沫感染と空気感染が分けられているのは感染力の差であるが、一定の条件下であれば飛沫感染する病気であっても空気感染するようになる。エアロゾル中の病原体の濃度が高まっている空間であれば、空気感染する。つまり、新型肺炎は空気感染する可能性がある。
飛沫が乾燥して体積が小さくなり、より長く空気中に滞留する可能性はある。そのため、医者の飛沫核のイメージが間違っているわけではない。ただし、通常であれば、この小さなエアロゾルであっても30分ほどで下におちる。そのような時間であれば、それほど乾燥を考慮する必要はない。それよりも本来的な小さな飛沫がエアロゾル化した部分が感染の原因になっている。
一方で、乾燥している環境であれば、確かに飛沫から水分が飛ばされ、より多くの病原体が空気中に残るようになる。暖房を使っていると乾燥が進む結果としてエアロゾル中の病原体濃度が増加し、なおかつ暖かい空気に乗って上方に巻き上げられる。コロナウイルスもこのような条件下では室内で集積されていくため、より空気感染するようになる。