要点
- 日本には危機対応のプロトコルが最初から存在した。
- 初動において危機対応ガイドラインを使わなかったために、対応策が後手に回った。
日本の新型肺炎対策は初動が明らかに遅れた。それは新型コロナウイルス感染症対策本部の初会合が行われたのが1月30日という点でも明らかである。つまり、この日になるまでは全体の総合調整を行う機関が存在せず、ほぼ徒手空拳で対応していたことになる。
例えば、入国制限を決めるとして、厚労省側に何らかの知見があっても、それだけでは入国制限は決められない。法務省や外務省はまた違う角度から入国制限を決めることになる。総合調整機関がないと、お互いに言い合うだけなので議論を決めるのは難しい。この総合調整が対策本部幹事会を通してなされる。この幹事会も1月30日から始動している。
つまり、この日付だけを見ても明らかなように、日本の新型肺炎対策は最初から遅れている。
そもそも、どうして対策本部の設置が遅れたかについては答えがはっきりしている。新型コロナウイルス対策の中心組織は新型インフルエンザ等対策室である。ここが事務局を兼ねているのかどうかまでは分からないが、そもそも対策本部という方法論自体が新型インフルエンザ等対策室の所管である。
https://www.cas.go.jp/jp/influenza/
ただし、新型肺炎が起こった当初は国際感染症対策調整室というところが中心になっていたはずである。ここのホームページを見ると、1月21日に新型コロナウイルスに関する関係閣僚会議を開催したとなっている。つまり、そもそも新型肺炎を所管していたのはこちらの国際感染症対策調整室になる。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/infection/news.html
どうしてそうなったのかは難しい問題であるが、おそらく、SARSやMERSを扱っているのが国際感染症対策調整室だったからだと思われる。そして、ここには大きな問題がある。この国際感染症対策調整室は国外の感染症を扱う部門であって、国外で感染症が発生した際に、どのように研究し、どのように支援するかを決定する部門である。
つまり、彼らは新型肺炎に対してどうやって中国に支援するかを考える部署であり、日本の感染症を食い止める組織ではない。つまり、最初にこちらの部署が新型肺炎を所管したために、日本の防疫は確実に遅れることになる。それは彼らが防疫対策の部門ではないからである。
一方で、新型インフルエンザ等対策室は防疫の部門であり、入国禁止等もこちらが本来的には扱っている。つまり、最初からインフルエンザ等対策室が主導していれば、初動の対策は全然違っていた。結果として、この二つの部門が一緒になることが報道されており、それは国が初動対策の問題がどこにあったか知っているという意味である。
ちなみに、この二つの部門間で縄張り争いがあったために、このような結果を生み出したのではない。新型インフルエンザ等対策室長も国際感染症対策調整室長も安居徹氏であり、最初からどちらの部門が所管しても縄張り争いが起こるはずがなかった。彼は経産省出身であり、厚労省の出身ではない。実はここにも問題があり、厚労省はこの対策室を通しても意見を上げているはずであるが、ここのトップが経産省の人間であるため、別のルートも使うことになる。その別のルートが内閣審議官の大坪寛子氏になる。
つまり、現状ではシステムのボトルネックがはっきりと現れており、ヒューマンエラーが大きな問題に繋がりやすい状態になっている。
そもそも、国内に感染症が入ってきた際にはインフルエンザ関わらず、インフルエンザ等対策室のガイドラインに基づいて行動することになる。今回の新型肺炎に関してもそのガイドラインを使っていれば、最初からスムーズにいろんなことが決まっていた。そして、このガイドラインを使っていれば、関係閣僚会議ではなく、最初から対策本部を立ち上げていたはずである。というのは、そういう風にガイドラインに書かれているからである。
現状において、インフルエンザ等対策室と国際感染症調整対策室が一緒に活動しているはずである。ただし、初動が遅れると最後まで後手に回る可能性がある。